「ブランディング」という言葉を聞くと、カッコいいロゴデザインを作ることや、おしゃれなブランドムービーを制作することなどを想像する人が多いのではないでしょうか?
しかし、このようなビジュアルで個性を表現することはブランディングにおいて単なる1つの手段にすぎず、その本質は少し異なるのです。

商品・サービスが圧倒的に増加しているこの激戦の市場の中で、あなたの企業・ブランドはどうすれば記憶に残り、愛されるのでしょうか?
本記事では、難しく考えがちなブランディングの本質をもっとシンプルに捉えて、その重要性と実践方法を探ります。

■この記事で学べること

  • ブランドの起源と定義
  • ブランディングは「人格をつくる」こと
  • 良いブランドの条件
  • ブランドの一貫性を保つ重要性

1.ブランドの起源

ブランドの概念は、私たちが想像する以上に古い起源を持っています。
「ブランド(BRAND)」という言葉は、古ノルド語で「焼き印をつける」という意味を持っていた「ブランドル(BRANDR)」が語源と言われてます。

放牧している牛などの家畜が、他人の家畜と紛れてしまわないよう、自らの所有物であることを示すために「焼き印」を付けたことがブランドの始まりだといわれています。

つまりブランドをつくる目的(ブランディング)とは、他社との差異化を図ることなのです。

2. 現代におけるブランドの定義

時代と共にブランドの概念は進化し、現代では多面的な意味を持つようになりました。
「近代マーケティングの父」とも呼ばれるマーケティング界の第一人者、フィリップ・コトラー教授は、ブランドを次のように定義しています。

ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ

この名称、言葉、記号、シンボル、デザインあるいはこれらの組み合わせが一貫した思想や世界観のもと開発されることで、はじめて独自性(=らしさ)を持ち、他者との差異化を図ることに繋がるのです。

3. ブランディングは「人格をつくる」こと

ブランディングは勘違いされることが多いのですが、シンプルに考えると意外と難しいことではありません。
パーパス、ビジョン、ミッション、ブランドアクション、トーンオブボイスなど難しげな専門用語がありますが、それに惑わされてはいけません。

そこで「ブランド=人格」という捉え方をすると理解しやすくなります。
ブランディングとはシンプルに言うと、企業やブランドの「人格をつくる」ことなのです。
ブランドを人格として想像すると、直感的に「好き」かどうかを判断しやすくなるというメリットがあります。

例えば、誰もが知るような有名なブランドは一貫した人格が確立できています。
おそらく多くの人は以下のブランドを人格として想像すると以下のようなイメージを持つのではないでしょうか?

  • ナイキ:スポーティでアクティブ、自分の主張を持っている
  • スターバックス:オシャレで都会的、自分の時間を大切にする
  • ケンタッキー:温厚で親しみやすい、家族との時間を大切にする

このように多くの共感を得て、長く愛されているブランドには明確な人格があるのです。
つまり、ブランディングをものすごくシンプルに言うと、企業やブランドがどんな「人」なのかを考えて、好きになってもらうことなのです。

  • どんな夢や意義をもって生きているのか?
  • どんな見た目なのか?
  • どんな雰囲気で接してくるのか?
  • どんなしゃべり方をするのか?
  • どんな行動をするのか?
  • 社会にどんな価値を提供する人なのか?

そういうことを考えていくこと。
そして覚えてもらい愛してもらうことこそがブランディングのシンプルな考え方なのです。

4.良いブランドの条件

では次に良いブランドの条件についても考えていきましょう。
良いブランドの条件も上記のように「ブランド=人格」として考えるとイメージしやすくなります。

つまり良いブランドの条件とは「尊敬できる人格」ということになります。
あなたにも尊敬している人物がいると思いますが、その方はどのような人物なのか想像してみましょう。
そう考えると良いブランド(=尊敬できる人格)には以下のような条件が当てはまるのではないでしょうか?

  • 偽りがない
  • ビジョン(夢)がある
  • 価値がある
  • 一貫性がある
  • 持続可能である(継続性がある)
  • 柔軟である
  • 差別化されている(独自性がある)
  • 約束を守っている
  • 感情を引き出す
  • 社会貢献の要素がある
  • 環境にやさしい
  • 企業倫理/ガバナンスがある
  • ポジティブである

もちろんこれらの条件は時代によって変化してくるものではありますが、良いブランド(=尊敬できる人格)を目指していく上ではこれらの条件を満たしていく必要性があります。

5.ブランドの一貫性を保つ重要性

発信手段の多様化やテクノロジーの進化により誰もが起業しやすい時代になったこともあり、社会の中は無数の企業およびブランドで溢れています。
その中で普通にしていても間違いなく埋もれてしまいますよね。

では、この時代にどうやって覚えてもらうのか?

それは独自性(らしさ)を可視化して、他者との差異化を図ることに他なりません。

役に立つ人、柔軟性がある人、約束は必ず守る人、何かわからないけど気になる人。
時代や社会の流れを考えながら「どうしたら愛してもらえるか?」を考えていくことこそがブランディング戦略なのです。

無数の企業やブランドがある中で一回見たり、会ったりするだけでは絶対に人は覚えてくれません。
そのため顧客との接点(製品、ロゴ、広告、SNSなど)を増やす必要がありますが、例え何回も接点があったとしてもそれぞれの場所で印象にブレがあると多くの人はなかなか覚えることができません。
例えば、毎回ジャンルの違う服装をしてくる人よりも、なぜか毎回会うたびに赤い帽子をかぶってくる人のほうが圧倒的に記憶に残りやすいですよね。

「何をしたいブランドなのか?」
「どこを目指しているブランドなのか?」

すべての接点においてで統一されたメッセージが発信されていなければ、人々の印象には決して残りません。

だからこそ「らしさ」を設計して、その独自性を言語化したりルール化していくことで「らしさの一貫性」をつくっていく必要があるのです。
毎回主張していることが変わる人や、言っていることと行動が伴っていない人など、その人格やイメージと異なる言動をしたら、信頼を失ってしまいますよね。

それは企業やブランドも同様で、もし掲げているビジョンや社会的意義などと異なる行動をするとブランドへの信頼は一瞬にして壊れていきます。
だからこそ、見た目だけでなく、体験や行動すべてに一貫性がなければ良いブランドは作れないのです。

■まとめ:人格を持つブランドの力

ブランディングの本質は、単なる製品やサービスの差別化ではなく、人格を持つ存在としてのブランドを創造することです。
明確な独自性、一貫性のあるコミュニケーション、そして約束と行動の一致。
これらの要素を慎重に設計し、実践することで、記憶に残り、愛されるブランドを構築することができるのです。

ぜひ、自社ブランドを「人格」として捉え直してみましょう。
どんな性格で、どんな夢を持ち、どのように世界と関わりたいのか?
この視点から自社のブランディングを見直すことで、新たな可能性が開けるかもしれません。