デザインや映像をはじめとした広報物をつくることは、決して“届ける”ためだけの行為ではありません。
制作の過程そのものが、関わるスタッフにとっての“特別な体験”になる──
そんな瞬間に、私は何度も立ち会ってきました。

「この病院で働いてよかった」
「ここにいる意味を思い出せた」

それは、動画やパンフレットの“完成物”ではなく、制作というプロセスがもたらした感情の変化だったのです。

一個人の小さな感情の変化ではありますが、その感情の変化が病院が変わっていくための大切な一歩になるのです。

今回は、そうした「クリエイティブにおける体験設計とその効果」について書いていきます。

📌 この記事で得られること

  • 制作過程がもたらす“インナーブランディング”効果の本質
  • 広報物が「関係者の感情を動かす」理由
  • 制作を“体験”として設計する視点とヒント

1. 制作の“過程”で目頭が熱くなった看護師さん

広報物をつくったのに反応がない──その原因は、ビジュアルの質ではないことが多いです。

「パンフレットを新調したけど見られていない」
「動画を公開しても再生されない」

それは、“何を”“誰に”伝えるかの軸がブレたまま、見た目だけを整えてしまった結果かもしれません。

伝わる広報物には、見た目以上に「視点」が必要です。
その視点が欠けていると、どんなにデザインが優れていても響きません。

ある病院で職員インタビューの撮影をしたときのこと。
カメラの前で語り終えた看護師さんが、少し目頭を熱くしてこう言いました。

「なんか、自分のことを話してたら…ちょっと込み上げてくるものがあって」

決して台本のある演技ではなく、ただ“この病院で働いてきたこと”を語っただけ。
でも、その過程で自分の仕事の意味を再確認したのだと思います。

制作とは、届けるためだけの行為ではない。
関わった人自身が、自分の“感情”と再会する時間でもあるのです。

2. 広報物が“中の人”にも影響する理由

外部に向けたパンフレットや動画は、当然「誰かに届ける」ためにつくられます。
けれど実際には、“つくること”が関係者の内側にも変化を起こすことがあります。

・自分の声が採用される喜び
・病院の想いを、自分の言葉で語れる場
・同僚の本音を“制作物”を通して初めて知ること

こうした体験は、スタッフの自己理解や職場への誇りにも繋がります。
外部発信は、同時に“内部への問いかけ”にもなり得るのです。

3. 制作は“インナーブランディング”のプロセスでもある

「病院が好きになるのは完成した動画を見たときではなく、その動画に“関わったとき”だった」

そう感じてくれたスタッフの方もいました。

制作は、非日常の体験です。
ふだん関わらない外部の人と話し、自分の想いを整理し、病院を客観的に見つめ直す機会にもなります。

これは単なる“広報物制作”ではなく、
組織の内側にじわじわ染み込むインナーブランディングのプロセスです。

4. “共に創る”ことが病院に与える意味

一方的に「制作を任せる」のではなく、スタッフ自身が“共に考え、関わる”姿勢になると、完成物の意味は大きく変わります。

・患者さんにどんなふうに伝わるか?
・病院のらしさって、なんだろう?
・自分はなぜここで働いているのか?

こうした問いが自然と生まれてくる。
制作は、その対話の場であり、自分の仕事を“自分ごと”として見直すきっかけになる。

だから私は、制作の過程にこそ意味を感じています。

5. 制作は「完成品」ではなく「変化のきっかけ」

広報物の完成は、ひとつの通過点です。
それ自体が素晴らしいことはもちろん、その“裏側で起きていること”にも、もっと目を向けてほしいと思っています。

✔️  つくることが、スタッフの感情を揺らす
✔️  撮影やインタビューが、職場の対話を生む
✔️  関わった人が、「ここで働いててよかった」と思える

これが、私が目指している“クリエイティブ制作を通じた体験設計”です。

まとめ

広報物は“届ける”ためのもの。
でも同時に、“関わる人自身が変化するための体験”にもなり得ます。

完成した動画やパンフレットだけでなく、そこに至る“プロセス”こそが、心を動かす力を持っている。

制作を、ただの「作業」ではなく「体験」に変えていく。
そんな広報のかたちを、これからも探っていきたいと思います。