デザインは現代社会において欠かせない要素であり、企業が外部デザイナーに依頼することも珍しくありません。
しかし、この協力関係には著作権に関する複雑な問題が絡んできます。日本デザイン振興会の調査によると、デザイン関連の著作権トラブルは年間1000件以上も発生しているといいます。
本記事では、デザインにおける著作権に基本と重要性を説明し、企業が外部デザイナーと協働する際の注意点について解説していきます。

■ この記事で学べること

・デザインにおける著作権の基本と重要性
・企業とデザイナーの権利関係
・「著作権」「商標権」「意匠権」の違い
・著作権トラブルを防ぐための10の具体的な対策


1.デザインにおける著作権の基本

著作権とは、創作者の知的財産を保護する法的権利です。
デザインの場合、それは「デザイナーの想いや感情が表現された創作物」を守るために存在します。著作権は、デザイナーがオリジナルの作品を創作した時点で自動的に発生し、多くの国で法律によって保護されています。

著作権の対象となるデザインには、商品パッケージ、広告、ウェブサイト、ロゴ、建築物の外観などが含まれます。これらの無断複製、改変、販売、またはその他の方法での利用は著作権侵害となり、法的制裁の対象となる可能性があります。

例えば、ある企業がロゴデザインを外注し、そのロゴを自由に使用していたところ、数年後にデザイナーから著作権侵害で訴えられるケースもあります。契約書に著作権譲渡の明確な記載がなかったため、企業は多額の賠償金を支払うことになったのです。

2.デザイナーの権利と依頼主の権利

デザイナーは、創作したデザインに対して自動的に著作権を持つことになります。
一方、依頼主である企業は、契約時に許可された範囲内でのみデザインを使用する権利を得ます。つまり、デザインの変更や契約外の用途での使用(二次利用)には、デザイナーからの許可や著作権譲渡が必要となるのです。

制作時の依頼と異なる用途でデザインの再利用することは「二次利用」と見なし、基本的に「二次利用料」が発生します。

また、依頼主である企業が、納品されたデザインを再利用するために制作したデザイナーに無断で修正したり、変更を加えたりすることも著作権法に違反する行為となります。
そのため、弊社でも納品するデータは、JPEG、PNG、PDFなどのご依頼内容に合わせた完成データのみとなります。
編集可能な.psd(Photoshop)や.ai(illustrator)などといった拡張子のファイルの納品は基本的に行っていません。

デザイナーの価値は、目に見える成果物だけではありません。長年の経験や技術、知識、そして実績が重要な資産となります。
IllustratorやPhotoshopなどのソフトウェアで編集できる「元データ」にはこれらの要素が詰まっています。このデータには将来的な収益の可能性も含まれており、元データは会社やデザイナー個人にとって重要な資産となります。
元データが必要な場合はまずは用途をお伺いし、利用料をお支払い頂いた上で部分的に編集データをお渡しするか、または著作権譲渡をすることが可能です。

3.著作権の譲渡と注意点

著作権には「著作権(財産権)」と「著作者人格権」の2種類があります。

・著作権(財産権)
著作権者が著作物の利用を許可してその使用料を受け取ることができる権利

・著作者人格権
著作物を通して表現されている著作者の人格を守るための権利

このうち、「著作権(財産権)」は譲渡可能です。
デザインの変更や幅広い用途での使用を望む依頼主は、この権利の譲渡を受ける必要があります。

一方、「著作者人格権」は、作品を作った人自身の人格を保護するという目的がありますので、譲渡することができません。
したがって、たとえ著作者が著作権(財産権)を譲ったとしても、著作者人格権は、著作者が持ち続けることになります。
これには以下の3つの権利が含まれます。

1.公表権:著作者が著作物を公表するかどうか、公表する場合どのような方法で公表するかをきめる権利。
2.氏名表示権:著作者が自分の著作物にその氏名を表示するかどうか、表示する場合本名にするか、ペンネームにするかをきめる権利。
3.同一性保持権:著作者が自分の著作物のタイトルや内容を、ほかの誰かに勝手に変えられない権利。

このほか、著作者の名誉や社会的な評価を傷つけるような方法で著作物を利用すると、著作者人格権を侵害したものとみなされることがあるので、利用するときは、注意しましょう。

著作者人格権の保護期間は、著作者の生存中ときめられています。しかし、たとえ著作者が亡くなった後でも、著作者人格権を侵害するような行為をしてはならないということも定められています。

4.混乱しがちな「知的財産権」

デザイン関連でよく聞く「著作権」「商標権」「意匠権」…これらは、すべて「知的財産権」の中で細分化されている権利です。

ここでは著作権、商標権、意匠権の説明と違いを解説していきます。

①著作権

著作権は、創作物を保護する権利です。

・【対象】:文学、音楽、美術、写真、映像など幅広い創作物
発生:創作と同時に自動的に発生(登録不要)
保護期間:著作者の死後70年(日本の場合)
目的:創作者の権利を守り、文化の発展を促進

例:小説、絵画、音楽の楽曲、写真など

②商標権

商標権は、商品やサービスの出所を示す標識を保護する権利です。

・【対象】:商品やサービスを識別するための名称、ロゴ、マークなど
・【発生】:特許庁に出願し、登録されて発生
・【保護期間】:10年(更新可能)
・【目的】:ブランドの保護と消費者の混乱防止

例:企業ロゴ、商品名、キャラクターなど

③意匠権

意匠権は、製品の外観デザインを保護する権利です。

・【対象】:物品の形状、模様、色彩など
・【発生】:特許庁に出願し、登録されて発生
・【保護期間】:最長25年
・【目的】:産業デザインの保護と促進

例:家電製品のデザイン、自動車のボディデザイン、家具のデザインなど

これらの権利は、それぞれ異なる側面から知的財産を保護し、創造性や産業の発展を支えています。

5.著作権トラブルを防ぐために企業が注意すべきポイント

1.契約内容の明確化
― 使用範囲、期間、著作権譲渡の有無を明確に定義する。
2.著作権譲渡の検討
― デザインの自由な使用や変更を望む場合は、著作権譲渡を検討する。
3.著作者人格権への配慮
― 譲渡不可能な著作者人格権を尊重し、デザイナーの意向を確認する。
4.商標権の検討
― ロゴなどの場合、商標権登録を検討する。
5.適切な報酬設定
― 著作権譲渡や使用範囲に応じた適切な報酬を設定する。
6.秘密保持
― 機密情報の取り扱いについて明確に定める。
7.第三者の権利侵害防止
― デザイナーに他者の著作権を侵害していないことを確認させる。
8.クレジット表示
― デザイナーのクレジット表示について合意する。
9.納品物の明確化
― デザインデータの形式や解像度などを具体的に指定する。
10.責任の所在
― 著作権侵害が発生した場合の責任範囲を明確にする。

■ 結論

デザインの著作権は複雑な問題ですが、企業と外部デザイナーが協力する上で避けて通れない重要な課題です。
両者の権利を尊重しつつ、明確な契約を結ぶことで、トラブルを防ぎ、創造的で生産的な関係を築くことができます。
著作権法を理解し、適切な手続きを踏むことで、企業は優れたデザインを最大限に活用しつつ、法的リスクを最小限に抑えることができるでしょう。