近年は、企業経営においてデザインに力を入れる企業が少しずつ増えてきています。
しかしながら、デザインへの投資効果は不透明な部分が大きく、なかなか積極的にデザインへの投資を行えない企業も少なくないはずです。
そこで今回はデザインの投資効果に対する様々な調査結果を参考に、その実態に迫るとともに、デザインへの投資において直面する課題についても解説していきます。

■ この記事で学べること

  • デザイン投資がもたらす具体的な効果
  • デザイン投資の効果測定が難しい理由
  • デザイン効果に対する業界の動向

1.デザインの投資効果を示すことができるのか?

デザインの投資効果に対する調査は様々なところで行われています。

Goodpatchが公開している日本企業のデザイン投資やデザイナーの働き方のトレンドを可視化する年次調査『ReDesigner Design Data Book 2022』では、「デザインに投資効果を感じていますか?」という質問に対して、90%が「投資効果を感じている」と回答しています。
これは2019年に比べて33%も増加している結果となっています。

また、「デザイン組織への投資で効果を感じている点は?」という質問に対しては、プロダクト品質向上から顧客満足度の向上、売上の増大など、様々な側面から効果を実感していることが分かります。

また、2018年に経済産業省から発表された「デザイン経営宣言」の中では、1ポンドのデザイン投資に対して営業利益は4ポンド、つまり4倍の利益が出るという調査結果が示されています。
またデザインを重視する企業の株価は、S&P 500全体と比較して10年間で2.1倍の成長を遂げています。

これらの数字が示すように、デザインへの投資は企業価値の向上に寄与していると考えても問題ないでしょう。

さらに、2020年に日本デザイン振興会より発表された「企業経営へのデザイン活用度調査」の中では、過去5 年の売上高増加率が10%以上の企業の割合はデザイン経営の取組みに積極的なほど増加傾向にあるという結果が示されています。

このような調査結果を見てみると、デザインの投資効果はあると見て良さそうと考えることができます。

しかし、この調査結果だけでは企業価値や売上の向上が、本当にデザインの投資による成果なのか、それとも別の要因により成果が上がっただけなのか、明確に示すことができないのもまた事実です。
企業価値や売上は総合的な取り組みで獲得するものであるため、多くの企業においてなかなか個別でのデザインへの投資効果を示すまでには至っていないのが現状であると考えられます。


2.なぜデザイン投資の定量的評価が難しいのか?

デザインへの投資は一定の効果はありそうという見解ではありますが、その効果を定量的に評価することについては多くの企業が頭を悩ませているところです。
定量的評価が難しい主な理由については以下のような項目が考えられます。

1.因果関係の複雑性

デザイン改善と事業成果の直接的な因果関係を特定することが難しい場合が多々あります。

  • 売上増加や顧客満足度向上が、デザイン改善によるものか、他の要因(マーケティング施策、経済状況など)によるものかの切り分けが困難
  • 複数の要因が複雑に絡み合っており、デザインの寄与度を正確に測定することが困難
2.長期的効果の測定困難性

デザイン投資の効果は即時に現れるとは限らず、長期的に表れることがあります。

  • ブランドイメージの向上など、長期的な効果は短期的な数値では捉えにくい
  • 投資効果が現れるまでの時間差により、他の要因との区別がさらに困難
3.無形価値の数値化の難しさ

デザインがもたらす価値の中には、数値化が困難な無形の要素が多く含まれます。

  • ユーザー体験の向上や感情的な繋がりなど、主観的要素を客観的に数値化するのは困難
  • 企業文化やイノベーション能力の向上など、間接的な効果を定量化するのが難しい
4.適切な評価指標の不足

デザイン投資の効果を正確に測定するための、標準化された指標や方法論が確立されていません。

  • 業界や製品によって効果の現れ方が異なり、汎用的な指標の設定が難しい
  • デザインの質を数値化する統一された基準が存在しないため、比較評価が困難
5.コントロールグループの設定困難

科学的な効果測定にはコントロールグループとの比較が必要ですが、現実的に限界があります。

  • 同じ条件下で、デザイン以外の要素をすべて同一に保つことは現実的に不可能
  • A/Bテストなどの手法も、複雑なデザイン投資の全体的な効果を測定するには限界がある
6.多様な影響範囲

デザイン投資の効果は、企業の様々な側面に及ぶため、総合的な評価が困難です・

  • 製品開発、マーケティング、顧客サービスなど、複数の部門にまたがる効果を統合的に評価するのは困難
  • 各部門での効果の現れ方や重要度が異なるため、統一的な評価基準の設定が困難

これらの理由により、デザイン投資の効果を完全に定量化することは極めて難しく、投資判断や効果検証において課題となります。
そのため、定量的評価と定性的評価を組み合わせた総合的なアプローチが必要とされるのが現状です。


3.デザイン効果に対する業界の動向

2022年8月に富士通デザインセンターは「デザイン効果の定量化宣言」というものを発表しています。

ここまで解説してきたように、デザインの効果の定量的な納得感が不十分な状態であることが、デザインへの投資やビジネスへのデザイン活用が進まない要因となっており、日本企業のデザイン経営レベルが伸び悩んでいると考えられます。

その課題に対して富士通デザインセンターは、デザインの効果を定量的に測定可能にするための指標設計を目的とした研究を開始しています。
この研究を通し、デザイナーは自身のビジネスインパクトを他職種に明瞭に語れるようになり、経営層はデザインへの投資のバランス感覚をつかめるようになることで、デザイン経営のより一層の促進・向上を目指しているということです。

その後、富士通デザインセンターでは「企業価値に対するデザイン効果の定量化」というデザイン組織の貢献を定量的に評価するための考え方や検証状況を紹介する研究レポートを公開しています。

このように富士通は企業経営におけるデザインの可能性を見据えて、その効果を定量的に測定可能にするための指標設計を目的とした研究を実施しています。
今後もその動向には注目していきたいものです。

■ まとめ:デザイン投資で企業の未来を描く

デザインへの投資はプロダクト品質向上から顧客満足度の向上、売上の増大など、様々な側面から効果を実感できる可能性があります。
しかしながら、まだその効果を完全に定量化することは極めて難しく、投資判断や効果検証において課題となっています。

富士通をはじめ、多くの企業がデザイン投資への可能性を信じて、様々な取り組みを実施していることもあり、今後デザインへの投資効果を定量的に評価するための手法やツールが確立してくることが期待されます。

デザイン投資とその効果測定は、きっとあなたの企業を次のレベルに引き上げる強力なツールとなります。
ぜひ業界の動向をチェックするとともに、この機会にデザインの力を最大限に活用してください。